「推しがいるおかげで毎日頑張れる」「つらいことがあっても推しの存在が支えになっている」——こうした感覚を持つ方は多いのではないでしょうか。一方で「推し活にのめり込みすぎているのでは」「これって依存なのでは」と、自分の気持ちに不安を感じる方もいます。

この記事では、推し活が心の健康にどのような影響を与えると考えられているのか、医師の視点から研究をもとに整理します。効果を保証するものではなく、あくまで「こういう傾向がある」という研究知見の紹介である点をあらかじめお伝えしておきます。

推し活と幸福感の関係|何が心にいい影響を与えるのか

推し活が心の健康にポジティブな影響を与える可能性がある要素として、研究では主に次のようなものが挙げられています。

1. パラソーシャル関係(疑似社会的関係)による安心感

パラソーシャル関係とは、テレビや配信を通じて視聴者が一方的に築く、有名人やキャラクターとの心理的なつながりのことです。1950年代にホートンとウォールによって提唱された概念で、実際に交流がなくても、まるで知り合いのような親近感や安心感を得られることが知られています。

この関係性は、対人関係のストレスを伴わずに「つながっている感覚」を得られる点が特徴です。人間関係に疲れやすい人にとって、推しとのパラソーシャル関係が心の拠り所になりやすいという指摘があります。

2. 推しへの応援行動がもたらす自己効力感

推しを応援する行動そのものが、自分の生活に目的意識や張り合いを生み出すことがあります。「誰かのために何かをする」という感覚は、自己効力感(自分には物事をやり遂げる力があるという感覚)を高める要素として、心理学の研究で注目されています。

3. 同じ推しを応援する仲間とのつながり

推し活は、同じ対象を応援する人同士のコミュニティを生みやすい活動です。共通の関心を持つ他者とのつながりは、孤独感の軽減に寄与する可能性が複数の研究で示唆されています。オンライン・オフラインを問わず、「同じものを好きな人がいる」という感覚自体が心の支えになりやすいと考えられます。

オキシトシンと「応援する喜び」の関係

オキシトシンは、しばしば「愛情ホルモン」「絆のホルモン」と呼ばれる神経伝達物質です。親子のスキンシップやパートナーとの信頼関係の中で分泌が高まることが知られています。近年では、必ずしも直接的な身体接触がなくても、誰かを大切に思う気持ちや、応援する行動の中でオキシトシン系の働きが関わっている可能性を指摘する研究もあります。

ただし、推し活とオキシトシン分泌の直接的な因果関係については、研究がまだ発展途上の分野です。「推し活をすればオキシトシンが出て幸せになる」と断定するのではなく、「応援する・大切に思うという行為が、心の健康に関わる神経系の働きと関連している可能性がある」という慎重な理解が適切だと考えます。

要素 期待される心理的効果 注意点
パラソーシャル関係 対人ストレスの少ない安心感 現実の人間関係の代替にしすぎない
応援行動・自己効力感 生活の目的意識・張り合い 推し活以外の目的意識も並行して持つ
ファン同士のつながり 孤独感の軽減 コミュニティ内のトラブルには距離を置く判断も必要

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推し活が心の負担になりやすいケースにも目を向ける

推し活は多くの場合ポジティブな側面を持ちますが、次のような状態になっているときは、少し立ち止まって見直すサインかもしれません。

こうした状態が続く場合、推し活そのものをやめる必要はありませんが、心療内科や心理カウンセラーなど専門家に相談することも選択肢のひとつです。推し活は生活を豊かにする力を持つ一方で、依存的な使い方になっていないか、時々自分自身で振り返る視点も大切にしてください。

推し活と「セルフコンパッション」の関係

セルフコンパッション(自分への思いやり)は、近年の心理学研究で心の健康との関連が注目されている概念です。うまくいかないときに自分を過度に責めず、「誰にでも失敗はある」と受け止める姿勢を指します。

推しの存在は、このセルフコンパッションを間接的に支える役割を果たすことがあると考えられています。推しが困難を乗り越える姿を見ることで「自分も完璧じゃなくていい」と思えたり、推しから褒めてもらう疑似体験を通じて、自分自身への優しい言葉かけの練習になったりするケースがあるためです。

ただし、これは推しに自分の自己肯定感のすべてを委ねることを意味するものではありません。推し活をきっかけに、自分で自分を認める力を少しずつ育てていく——そうした視点を持つと、推しがいない時間帯や状況でも、心の安定を保ちやすくなります。

推し活を心の健康に「うまく」活かすための考え方

年代別に見る、推し活とメンタルヘルスの関わり方

推し活が心に与える影響は、ライフステージによっても現れ方に違いがあると考えられています。

10代・学生

アイデンティティ形成の一部として機能しやすい時期

思春期は自分らしさを模索する時期であり、推しへの憧れが「こうありたい自分」を形作る材料になりやすいです。一方で、友人関係や勉強とのバランスを見失わないよう、周囲の大人が過度に否定せず見守る姿勢も大切だとされています。
20〜30代・社会人

ストレス発散と自己投資のバランスを取る時期

仕事のストレスが大きい時期だからこそ、推し活が心のバランスを保つ役割を果たしやすいです。ただし、金銭面や睡眠時間への影響が出ていないか、定期的に振り返る習慣を持つことをおすすめします。
40代以降

生活の張り合い・社会とのつながりを保つ役割

子育てや仕事が落ち着く時期に、推し活が新しい生きがいや交友関係のきっかけになるケースも報告されています。同世代のファン同士のコミュニティが、孤立感の予防に寄与する可能性も指摘されています。

まとめ:推し活は、正しく付き合えば心の支えになり得る

推し活は、パラソーシャル関係による安心感、応援行動による自己効力感、ファン同士のつながりによる孤独感の軽減など、心の健康にポジティブな影響を与える可能性がいくつかの研究で示唆されています。一方で、生活のバランスを崩すほど依存的になっている場合は、専門家への相談も選択肢に入れてください。

推し活とメンタルヘルス・要点まとめ

  1. パラソーシャル関係は対人ストレスの少ない安心感を生みやすい
  2. 応援行動は自己効力感や生活の張り合いにつながる可能性がある
  3. オキシトシンとの関係は研究途上であり、断定は避けるべき領域
  4. 推し活が生活に支障をきたす場合は専門家への相談も検討する
  5. 推し活のポジティブな気持ちを、日々の習慣にも波及させる工夫が有効

推しを大切に思う気持ちは、決して恥ずかしいことでも、弱さの表れでもありません。その素直な気持ちを無視しないでください。無理のない形で、推し活と自分の心の健康、どちらも大切にしていきましょう。🕊️

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